ちょっとこの辺で、
短大の卒業旅行での話を少し。
私がまだピッチピチのギャル(古い)だった頃の話よ。
女だらけの6人で、グアムのラデラタワーに泊まったの。
コンドミニアムだったんだけど、ものすごーく広くて、
キッチンだけでも10畳くらいあった気がする。
ベッドルームは3つ。
リビングは30畳くらいあった。たぶん。
貧乏学生の安旅行の割には、素晴らしい環境だったよ。
ただ、ラデラのコンドミニアムはちょっと街から離れた場所にあったから、
ある1日は夜ごはん食べる場所をラデラのコンシェルジュにお願いして、
オススメのレストランを予約してもらったんだ。
なんでも、プールサイドでバーベキューが食べられるとか!
しかもシェフが焼いて持って来てくれるスタイルのレストランだって!
んまっ!なんですって??
いいじゃないの、いいじゃないの!
超オシャレじゃん!超リゾートじゃん!
そりゃもう、浮かれたよね。
ハタチの小娘だったしね。
もちろん送迎の車がお迎えに来てくれるとのことだったから、
私たちは集合時間の5分前にはエントランスでお行儀よくスタンバイしてたよ。
送迎車はリムジンかな??、なんて目をキラキラさせながら。
(なにせ小娘だったものでね)
だが、約束の時間を過ぎてもリムジンは来ない。
待てど暮らせど来ない。
我々日本人は、とても不安になった。
コンシェルジュのお姉さんから聞いた時間、間違ってたかな?もう一度聞きに行く?
なんて話してたら、遅れること10分、ようやくそれらしい車が到着したの。
普通のバンだったけどね。
(そりゃそうだ)
まぁ南国だし、遅刻なんて当たり前だよね。いいのよ、それも文化。
私たちは広い心で彼を許したわ。
きっと車から出てくるドライバーは、ウケるほどアロハシャツのよく似合う、
小太りの陽気な兄ちゃんなんだろうなぁ~♪とか思ってたら、
実際中から出てきのがこんな感じのおっちゃんで…
え?・・・蛾次郎?
寅さんシリーズでいい味出してた、あの蛾次郎だよね?
なんでグアムに蛾次郎がいるわけ?
ホンモノ?
蛾次郎の生き別れた弟?
てか、なんでグアムでしっかりハッピ着てんの?
サービス?サービスなの?
客が日本人ならハッピ着ときゃ喜ぶだろ的な?
日本では蛾次郎はスターなんだろ的な?
私たちは、情報処理に困った。
笑いをこらえるのに必死だったが、理性が働く我々日本人は、
失礼のないように振る舞った。
しかし蛾次郎は、そんな我々の懸命な思いやりを
いとも簡単に裏切った。
ヤツはいったん車から降りて、「お迎えにあがりましたぁ!」って感じで
私たちのいる所に近づいてきたんだけど、
いきなり「あっ!!」って顔して車に戻って行ったの。
なんかドアのところでモゾモゾしてるんだけど、よーく見たら、
少し開いてる窓から車内に腕を入れてたのよ。
そう。蛾次郎は、キーをつけたままドアを閉めちゃってたのよ。
そこでもう私たちは限界を超えたわ。
全員肩震わせて吹き出したよ。
マジ、助けて。
しばらくしてなんとか窓の隙間から鍵が抜けたみたいで、
何事もなかったように車に通されたけど、
えらいタイムロスくらったわ。
さ!気を取り直して!美味しいバーベキューが待ってるんだから!
有名シェフが丁寧に焼いてくれる極上のお肉…。
美しいプールサイド。海に落ちる絶景の夕日。
あぁ…早くっ早く私をうならせてっ!!
ようやくプールサイドのレストランに到着!
蛾次郎に案内されて通された先には…!!!!
なにこれ…。
とてもしょぼいシンプルなプールに、心ばかりのたいまつ。
海の家で見かける適当なテーブルとイス。
…マジですか。
いや、きっと味と食材はいいはず!
シェフの腕はピカイチなはず!
どこ?!シェフはど・・・
もう…味なんて覚えちゃいないさ…。ふっ。
燃えたよ。燃え尽きた。
真っ白だ…。
ただ最後にそうめん出てきたのだけは覚えてる。
もうつっこむ気力も残ってなくて、
泣きながら6人無言ですすったもんさ。
それにしても、なんの打ち合わせもなく
6人全員に横山やすしが降臨し、ツッコミが完全に一致したのは奇跡だったわ。
後にも先にもこの時だけよ。
ありがとよ、やすし。
※佐藤蛾次郎と横山やすしを知らないヤングなおともだちは、
ググるかお母さんに聞いてね!